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ドイツ・オランダ四大学で講演旅行してきました(前編)

※本記事は第2回デジタル有機合成レクチャーシップアワードの記事を加筆・修正したものです。

はじめに

「次は必ず出す」。第1回レクチャーシップアワードから一年、念願の申請をし、幸いにも第2回に採択していただいた。デジタル有機合成での募集が契機となり参加したSICC-11で面識を得た研究者を軸に調整し、RWTHアーヘン(ホスト:Daniele Leonori教授)、ボン大学(ホスト:Andreas Gansauer教授)、アムステルダム大学(ホスト:Timothy Noël教授)、ミュンスター大学(ホスト:Armido Studer教授)の4大学を巡ることとなった。余談だが、SICC-11は自身初の海外での口頭発表だった。多くの研究者とも交流でき、貴重な機会をいただいたと今でも感謝している。

講演題目は「Altering Selectivity in Photocatalytic Bond Cleavage」。早稲田大学着任後に推進してきた可視光駆動の結合開裂を中心に、渡欧直前に報告したピロリジンのC–N結合開裂や未発表データを含めて構成した。国際学会で英語講演の経験はあるものの、海外大学での講演は初。しかも、筆者の身に余る錚々たる教授陣を前にしての講演である。緊張と高揚を抱え、冬の欧州へ向かった。

RWTHアーヘン

最初の訪問はRWTHアーヘン。ドイツ鉄道の遅延を懸念して、Leonori先生に手配していただいたタクシーで移動。講演前夜はLeonori研のGiovanni、Thomas、Linda、笠間健吾さん(富山大学)らにクリスマスマーケットへ連れて行っていただいた。アーヘンは大聖堂や旧市庁舎のある広場を中心に街路が巡らされた小都市であり、クリスマスマーケットはその中心部で行われる。屋台でグリューワインを飲み、体を温めてからディナーへ。Flammkuchen(分かりやすく言うとドイツ風ピザ)という伝統料理を食べながら研究室の日常などを聞いた。

翌朝、Giovanniに迎えられ、群青色の空の下、朝のアーヘンを歩いて化学科へ。重厚な外観の建物に入り、まずCarsten Bolm教授とのディスカッション。メカノケミストリーを用いた電子移動の話が興味深かった。続いてFrédéric W. Patureau教授から、カルバゾールのカップリングからフェノチアジン化学への展開を解説していただいた。居室を後にする際、化学科のゲストブックに名を記すよう促された。前頁には Hashmi教授、他にもRitter教授や三浦雅博教授のサインが目に飛び込んできた。この本にサインする重圧と今回得た機会の価値を噛み締め、身が引き締まった。Leonori研のメンバーとのディスカッションは、ニトロアレーンの光反応が中心。Danieleが紅茶を振る舞ってくれ、和やかに始まったが、学生の説明の不備を見逃さない姿に、教育者としての矜持を見た。その後は講演。Danieleとは数ヶ月前に東京観光をしており、落ち着いて臨むことができた。講演後は学生が質問に来てくれ、Bolm教授の言葉にも励まされた。昼食では、Leonori教授、Patureau教授、若手のFlorian F. Mulks助教授から学科運営やドイツのアカデミア事情をうかがった。午後はMulks助教授とのジカチオン化学の議論から大いに刺激を受けた。日本とは状況が異なるが、研究開始時の苦悩に深く共感した。夕刻、Leonori研に戻り、別のメンバーからアミンボラン錯体を用いたC–N結合開裂の成果を紹介いただいた。やがて、筆者の講演内容に話題が移り、講演会でも質問をくれたZhang(後述のGansauer研出身)のアイディアを発端に、議論は白熱した。新しい反応のアイディアも生まれ、有意義なディスカッションができた。夜はGiovanni、Thiagoと市内で会食。化学科ではLeonori研の”消灯時間”が最も遅く、研究棟へは365日アクセス出来るとのこと。ビックラボの驚異的な成果は、彼らのひたむきな努力に支えられていると感じた。

Bonn University

翌日、ボン大学へ列車で移動した。ホストであるGansauer教授とは駅のプラットフォームで待ち合わせだった。自由席だったが車両の扉が開くと眼前に同教授が立っており、心臓が止まりそうになった。紙上でしか知らなかった憧れの研究者に突然対面した驚きも重なり、慌てながら、ホームで出迎えていただいた御礼と挨拶を述べ、市中へ向かった。ビアバーで昼食をとった後、講演まで時間があるからということで、市内観光に連れて行って頂いた。美しい街並みを見ながら、ミンスター教会や、HARIBO本店、現在は大学所有となっている宮殿などの観光名所を巡った。なお、ボン大学はキャンパスが存在せず、校舎が町中に点在している。歴史的建造物が大学施設として活用され、キャンパスが街に溶け込む学園都市の趣が漂っていた。

Kekulé-Institute入口にあるケクレ先生の銅像に挨拶した後、Gansauer教授の居室に荷物を置いて、すぐ講演へ。その後、2021年に着任したAla Bunescu助教授とディスカッション。鉄触媒による脱炭酸反応に関してTEMPOの興味深い役割を解説していただいた。Gansauer教授の居室に戻ると、筆者の発表内容に即した具体的な助言を多数受けた。特にチタノセンとジルコノセンの反応性の差異に関しては、同教授の研究を交えながらご教授していただいた。自身の研究の出発点である同教授の論文は読み込んでおり、筆者も身を乗り出して議論した。チタノセン研究の大家と贅沢かつエキサイティングな議論はまさに至福の時間であった。話は共同研究の進め方、学生との向き合い方にまで及び、初対面とは思えない懐の深さに感銘を受けた。夕食は行きつけの博物館併設レストランで、チタノセン研究の原点や教育観を伺いながら地ビールとドイツ料理を楽しんだ。近年は国際会議に出られていない同教授と腰を据えて語り合えたのは貴重であった。

後編につづく

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太田英介
趣味は唄うこと、バドミントン、ランニング、路地裏巡りなど。守破離の精神をモットーに異分野をつなぎ、ニッチな世界で先駆者を目指す。まだ見ぬ分子・隠された機能・未開の反応形式を夢見ながら、学生たちとより多くの感動の瞬間を分かち合える研究者でありたい。

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