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チーズ研究 第1章~博士課程2年の大木、チーズプロフェッショナルになる。~

突然ですが、みなさんは日本にチーズプロフェッショナル資格認定試験なるものが存在することをご存じでしょうか?

ワインソムリエ、野菜ソムリエ、SAKE DIPLOMA……。
名前だけでも華やかな資格は数あれど、なぜかチーズだけ影が薄い。

しかし、あります。

チーズに人生を捧げた人々が挑む資格試験が。
そして私は、博士課程2年の最後…やっとの思いで、この資格を手に入れました。

チーズにも「最高峰の資格」がある

実は国内には、チーズに関する資格はいくつか存在します。
しかし、その中でも別格なのが チーズプロフェッショナル資格認定試験

一次試験(筆記/今年からCBT方式)を突破し、さらに二次試験(テイスティング+筆記)を通過して、
ようやくチーズプロフェッショナル、通称「チープロ」と名乗ることができます。

ストレート合格率は約30%。
つまり、3人に1人しか受からない。

「チーズが好き」くらいでは、普通に落ちます。

合格すれば、飲食店やチーズショップでのPRはもちろん、
協会サイトやSNSでの個人紹介も可能。乳製品・チーズ業界では、なかなか強い資格です。

そんな“チーズ沼の最高峰”に、なぜ山口研究室の博士学生が足を踏み入れたのか——。

■今回の構成

  1. なぜ、チープロを目指したのか

  2. 涙も出なかった不合格

  3. 梶田泉先生・同じ目標をもつ仲間との出会い

  4. 雪辱を果たすとき

有機化学研究室の博士課程の学生が、チーズの世界に惹かれていく過程を、少しだけ覗いてみてください。


1. なぜ、チープロを目指したのか

山口研究室では、
海外・国内から著名な先生を招いた講演や、論文受理、人生イベントに合わせて宴会がよく開催されます。

しかし、問題がひとつ。私は、お酒が飲めません。

みんながビール、ワイン、日本酒、ウイスキーで盛り上がる中、私はひたすらジンジャエール(気分はシャンパン)。

ソフトドリンクを4〜5杯も飲めば、胃が限界を迎えるのは言うまでもありません。

同じテーブルにいるのに、同じ楽しさを共有できない、これは、地味に悔しい。

「私にも酔える何かが必要だ」

そう思って目を向けたのが、おつまみサイドでした。

そして出会ってしまったのです。チーズという、沼に。

初めての衝撃:世界にはこんなチーズがあるのか

調べてみると、新宿伊勢丹に
Fromagerie HISADA というチーズ専門店があるらしい。

恐る恐る足を踏み入れると
見たことのないチーズが、何十種類も並んでいる。

青い、白い、オレンジ、黒、胡椒入り、ワイン漬け。石のように硬いもの、クリームのように柔らかいもの。

店員さんの説明を聞くうちに、チーズの裏側には、地域の歴史、発酵微生物、熟成文化が
ぎっしり詰まっていることを知りました。

「これは……絶対に面白い世界だ。」

そう確信し、気づけばチーズの世界に引き込まれていました。

そして「資格」の存在を知る

さらに調べるうちに、チーズプロフェッショナル協会(C.P.A.)の存在を知ります。

・チーズの基礎を学ぶ「チーズ検定」
・その先にある最高峰「チーズプロフェッショナル資格認定試験」

まずはチーズ検定に挑戦し、無事合格。そして次に、チープロを調べた瞬間、気づきました。

「チーズプロフェッショナルは別次元だ

歴史、製造、国ごとの文化、熟成、法律、販売、サービス。二次試験では、チープロとしての提案力まで問われます。

これは、挑戦しがいがある。

完全に火がつきました。


2. 涙も出なかった不合格

噂通り、試験は重たい。分厚い「チーズの教本」(ほぼ全部、覚えます)

一次試験は1〜2ヶ月の集中勉強で、なんとか突破。
しかし問題は二次試験。

研究が忙しく、勉強は後回し。テイスティング練習はほぼ勘。

結果は不合格。

試験後、会場のTOC有明からお台場まで歩き、あまりもの手応えのなさに、夕陽を見ながら公園のベンチで横になりました。

涙は出ませんでした。

「努力してないから落ちた」
ただ、それだけ。

でも、この不合格が火をつけました。

「来年、絶対に取りに行く。」この瞬間、覚悟が決まりました。


3. 梶田泉先生・仲間との出会い

チープロ一次試験合格者には、二年間一次試験免除制度があります。
いわゆる“チーズ浪人”です(ワインとかと比べてチーズでは浪人生が結構多いらしいです)。

同じように挑戦している人はいないのか?チープロ取得者って実際どんな人なんだ?調べていくうちに、一人の名前にたどり着きました。

梶田泉 先生。

フランスチーズ鑑評騎士(シュヴァリエ)World Cheese Awards審査員日本ソムリエ協会シニアソムリエなど数々の肩書きを持ち、チーズ分野の最前線で活躍するスペシャリストで「マツコの知らない世界」にも出演されている。
経験・知識・発信力。全て規格外。

さらに先生が主宰する「かじたいずみチーズ教室」には、同志が集まっている。

「この人たちと学びたい」

せっかくなので、研究生活では普段出会わない年代も背景も異なる人たちと交流してみようと思いたち、私は、単独で梶田先生のチーズ教室に乗り込みました。

そこでの勉強内容などは特に記載できませんが、理論的にチーズを学ぶ視点は本当に面白く、ますますチーズ沼へハマっていくことに。

時には、みんなでチーズ製造を実習してみたり、飲み会などにも参加して、多様な年代・業界の人と交流できたのはとても貴重な経験でした。


4. 雪辱を果たす時

今年は一次免除。だからこそ、二次試験に集中。夜な夜な、ティスティングコメントを書き、知識を整理し、提案を練習。

断片的なチーズ知識が体系化されていく面白さを実感しました。

昨年よりもしっかりと自信をもって、試験に臨める体制ができました。

そして 二次試験へ

月曜(10/20)が試験日なので、研究室を休み、見慣れたあのゆりかもめにのり、あのTOC有明へ、

試験時間が14–16時なので、お昼ご飯に迷い、ティスティングもあるので、味薄めのサンドイッチをセブンイレブンで購入(有明はあまり食べるところありません)。

そして、試験開始。チープロのニ次試験はとても面白く、食品表示も試験範囲なので、協会側が用意してくれたラベルなしのペットボトル水と、テイスティング用のチーズがいくつか入ったチーズプレートが一人一人に用意されていて、試験開始ともに実食するという奇妙な光景。

自分の時間配分戦略もうまく行き、ある程度の手応えを感じながら、試験終了。

試験後、昨年と違ったのは一人で夕陽を見なかったこと。

受験仲間とそのまま打ち上げへ。これが、最高に楽しかったです(GOOD CHEESE GOOD PIZZA 日比谷で自家製モッツァレラやリコッタなど、おいしいチーズをいただきました)。

どうしても試験内容が気になってしまうので、いろんな受験者と話をしていると自分も凡ミスをいくつか発見し、まずいかと不安がよぎりましたが、1週間後無事合格通知をいただきました。

梶田先生および、毎週お世話になっているフロマジュリーHISADA新宿のスタッフの皆さん、そして研究室メンバーにも結果を報告し、皆さんに喜んでいただけたのはとても嬉しかったです。


そして、次の一歩へ

Fromagerie HISADAに通い始めて約2年。ついに、ここまで来ました。今後はチープロとして研究室を代表してチーズのもてなしができればと思っています。

また現在は、CPA協会の「東京のチーズプロフェッショナルがいるお店」に早稲田大学 山口潤一郎研究室(大学・研究機関)が掲載されています。

百貨店やレストラン、酒屋やチーズショップなどの小売店の並びに、大学研究室がある。なかなかクレイジーで、グレートです。

今後は、やはり、チーズ製造の現地に赴き、製造なども学んでみたいです。チーズ × 化学の話も発信していく予定です。

どうぞ、お楽しみに。

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チーズプロフェッショナルへと昇格。チーズと有機化学の二刀流。助手にもなりました。

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