分子をつくる以上、結合の切断と形成は表裏一体です。自在な分子構築を達成するためは望みの結合を切断することからはじまります。安定な炭素—炭素結合の切断に伴う新しい分子結合形成を目指し、それらを促進する新しい触媒開発を行います。
現在の研究例(着手中)
環変換型フッ素化反応の開発 (2019–)
TBA(後日記載します)。
脱芳香族的官能基化反応の開発と応用 (2016–)
ベンゼン環の芳香族性を壊しながら官能基の導入を行う「脱芳香族的官能基化」は無尽蔵に存在する芳香族化合物を出発物質とし、創薬研究において重要視される多様な置換脂環式化合物へ効率的に誘導可能な強力な手法です。電子豊富なフェノール類やもしくは電子不足なアジン類に対する触媒的脱芳香族的官能基化の報告は多いものの[1]、電子的に中性なベンゼン類の当該手法の開発は立ち遅れています。
これは①高い芳香族安定化効果の打破、②導入する官能基の位置選択性の制御が困難であるという問題に起因します。ベンゼン類の脱芳香族的官能基化として、遷移金属アレーン錯体を用いる手法や可視光照射下[4+2]付加環化を行う手法などが知られますが、化学量論量の毒性金属の使用や大過剰量の基質の使用が必要です。そこで私達は、遷移金属触媒によるベンゼン環外の置換基の結合切断を起点としたπ-ベンジル錯体中間体の生成に解決の糸口を求めました。π-ベンジル錯体は、容易に生成可能であり、ベンゼン環の2π電子が遷移金属との結合に使用されるため芳香族性が失われ反応性が向上しています。そのため、この中間体に位置選択的に求核種を導入することで様々な脱芳香族的官能基化が可能となると考えました。本研究では、ベンゼン環を触媒的に脱芳香族化し、π-ベンジル錯体を鍵中間体とした多様な三次元骨格を形成する官能基化反応の開発を目的としています。
結合切断反応が拓く革新的分子合成技術の開発 (2016–)
次世代の科学・技術を担う新たな機能と物性の要である化学において、合成化学は常に最重要分野の一角を占めています。物質科学の根幹を支えてきた精密有機合成の学術的および社会的な貢献度は極めて高いが、未だ「自在な分子切断・連結による機能性分子の創成」という究極のものづくりには程遠いのが現状です。有機合成化学は熟練した合成化学者のためのみならず、誰もが利用できる「技術」でなくてはならないと考えています。一連の化学反応を「技術」へ引き上げるために、あらゆる分子を自在に切断し、炭素骨格や官能基へとつなぐ新触媒開発に着手したい。
その夢の実現のため、申請者は、官能基化を伴わず直接分子を結合できる、炭素—水素結合直接変換反応に焦点を絞り、独自の標的指向の触媒開発により本分野の発展に寄与してきました。現在では、多数の化学者が数多の優れた炭素—水素結合変換反応を開発しており、分野は飽和しつつあります。すなわち、分子結合化学の観点では、化学者は自在な結合形成の第一歩を踏み出したと言っても過言ではない。そこで、次なる研究の焦点は、分子切断化学であると考えた。協奏的な分子切断と結合形成をバランスよく開発することで革新的な分子合成技術を提供できることを信じている。これが本研究の着想に至った経緯です。
有機化合物の炭素—炭素結合を切断し、有用物質に変換できれば、自在なものづくりへの第一歩が拓けます。すなわち炭素—炭素活性化反応を行うことで革新的分子合成技術を開発することを目的としています。既に、当該分野の先駆的な研究成果は多数報告されているものの、特殊な基質を利用しなければならず、合成化学に真に有用な変換反応にはさらなる飛躍を必要としています。
本研究では、これまでの知識と経験を基として、明確に標的を定め、分子触媒により分子切断化学の革新を促します。標的となる結合は、ユビキタス官能基、sp3炭素—炭素結合、そして、強固なsp2-sp2炭素—炭素切断反応です。また、その反応を鍵とした有用化合物合成に着手します。