炭素切断反応

アルカンのヒドロホウ素化

σ-Bond Hydroboration of Cyclopropanes
Kondo H.; Miyamura, S.; Matsushita, K.; Kato, H.; Kobayashi, C.: Arifin; Itami, K.; Yokogawa, D.; Yamaguchi, J.
J. Am. Chem. Soc. 2020, Just Accepted Manuscript
DOI 10.1021/jacs.0c05213

アルケンのヒドロホウ素化は有機合成における基本的反応である。アルケンがボランと反応してアルキルボランを生成し,酸化によりアルコールを生成する。アルケンの二重結合(π-結合)はその高い反応性のために容易にボランと反応させることができますが,単結合は容易に反応しない。つまり、アルカンの単結合(σ-結合)はヒドロホウ素化がほとんど起こらないとされてきた。そこで、我々は、σ-結合性が比較的弱いシクロプロパンをモデル基質として選択し、σ-結合の切断反応の開発を目指した。その結果、[Ir(OMe)(cod)]2 触媒の存在下、tBuQiunoxを配位子に用い、一置換シクロプロパンと HBpin を反応させることでシクロプロピルアミンのヒドロホウ素化体が得られることがわかった。

 ようやく日の目を浴びました!炭素ー炭素結合をぶったぎってヒドロホウ素化する反応です。アルケンやアルキンは人名反応になるほどよく知られていますが、アルカンはほとんど有りません。シクロプロパン限定ですがなんとか「アルカンのヒドロホウ素化」を達成しました。この研究実は前職の伊丹研時代の研究で、これは絶対ネイチャーサイエンスいけるぞ!と意気込んでました。しかし残念ながら、不斉反応化がうまくいかず、納得のいかないまま論文を書いたものの3年間放置していました(すみません)。COVID-19のおかげで時間ができ論文を整理していた時に出しました。

論文は新規性は抜群で非常に高評価だったのですが、かなりの論文訂正を迫られ、あれこれやって見違えるようによくなったのですが、タイムオーバー。研究室閉鎖となり研究ができなくなりました。不満足ながらもできたところまでで、再提出したら、なんなくアクセプトされました。筆頭著者で多大な貢献をしてくれた近藤くん、この反応を発見してくれた宮村さん、論文訂正を手伝ってくれた松下さん・加藤くん、1年間うまくいかない不斉反応に取り組んでくれた小林さん、C-Hじゃないのに見守ってくれた伊丹さん、そしてメカニズムの計算科学による解明に取り組んでくれたArifinくんと横川さんに心より感謝したいと思います。なんとなく喉にひっかかっていた骨がとれて、とってもすっきりした気分です。みなさんおめでとう!ありがとう!そしてごめんなさい。

山口潤一郎

追伸:Zhangzhi Shi教授のこの論文を見逃していたことに、本人からの指摘でわかりました。すみません。2置換なので微妙なところですが。ちなみに彼らの反応は2001年に報告された山本尚先生のシクロプロパンのヒドロシリル化と類似条件ですが(彼らは引用していない)。いずれにしても論文はちゃんと調べないとだめですね。反省。

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