脱ニトロ型反応

脱ニトロ型分子内溝呂木–Heck反応

Pd-Catalyzed Denitriative Intramolecular Mizoroki–Heck Reaction
Kitty K. Asahara, Kei Muto and Junichiro Yamaguchi
Chem. Lett. 2023, Advance Publication
DOI: 10.1246/cl.230056

芳香族ニトロ化合物をアリール化剤に用いる脱ニトロ型カップリング反応が近年矢継ぎ早に見いだされている。我々も以前、2-アレノキシニトロアレーンの脱ニトロ型C–Hアリール化によるジベンゾフラン合成や、分子間脱ニトロ型溝呂木–Heck反応を報告した。いずれの報告に置いても、我々はニトロ基の高い求電子性を活かし、2-フルオロニトロアレーンに対するアレノールのSNAr反応、続く脱ニトロカップリングを組み合わせることで、効率的な分子合成法となることを示してきた。今回、SNAr反応と続く分子内溝呂木–Heck反応を用いれば簡便な環状分子合成ができると考えた。検討の結果、Pd/BrettPhos触媒と炭酸セシウム存在下、アルケニル鎖をもつ芳香族ニトロ化合物の分子内溝呂木–Heck反応が進行することを見いだした。また、2-フルオロニトロアレーンに対するSNAr反応/本脱ニトロ型反応を同一フラスコ中で進行させることもできた。

 淺原キティ最後の論文。なんとか間に合わせることができました。

実は相当前に取り掛かっていて、これは簡単に行くだろうと思っていた反応。ニトロアレーンの反応性が低く、合成したアリル化合物の脱アリル化が進んでしまうために、基質合成に工夫が必要でした。分子間を出したのになぜいまさら分子内をと思うかもしれませんが、おっしゃるとおりで理想的にはキラルな4級不斉中心を構築できるだけで、特に利点はありません。しかも、不斉云々どころか4級不斉中心もほぼ構築できませんでした。

それでも論文化したのは、ほんとうに苦労した研究を外に出したいという思いでした。実は、しっかり論文化されている内容って、うまく行った結果であり、うまくいっていないものは論文化されていませんよね。そういった意味では今回の論文は研究室、いや淺原キティにとって重要な論文であり、まとめられる限りは他に何を言われようとも出してあげたいと思いました。

それにしてもギリギリでしたが、形として残せて良かったと思います。化学としては僕の範疇ですが、二人三脚で一緒に研究してくれた武藤准教授のサポートなしでは論文化どころか卒業もままならなかった淺原キティ。

でも、最後は笑顔でうれしそうです(武藤とは写真の時間があいませんでした)

おめでとう!

山口潤一郎

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