デカアリールアントラセン(以下、DAA)の合成に関する論文がJOCに掲載されました(論文リンク)! 伊丹研究室の大先輩である鈴木真さんと、後輩の田中脩平くんとの共同研究です。
見た目がキャッチーな化合物なので、様々な方の反響をいただき、JOCのMost Read Article(11月)にランクインすることができました! また、最近では、Synfactにも論文を紹介していただきました(リンク)。
せっかくなので、このブログで論文の個人的なハイライトを紹介したいと思います。
1. チオフェン3つでアントラセンを構築!?
3つのチオフェンの、3回の付加環化反応を行うことでアントラセンを構築しました! アントラセン骨格14炭素中、12炭素がチオフェンで構成されています(残り2炭素はアセチレン)。当研究グループではチオフェンの自在アリール化法を開発しているので、この方法で合成したチオフェンを材料に用いれば、多様にアリール化されたアントラセンを合成することができます。
2. 大変な合成でした
合成戦略自体は単純明快ですが、肝心の鍵反応の[4+2]付加環化反応の収率が低く、合成に苦労しました。特に最後の付加環化反応は、立体障害の影響で収率は4%でした(図)。さらに、本反応では二種類の構造異性体が生成するので、実質2%です。
これら構造異性体の分離も大変でした。異性体は互いに構造上の相違点がほぼないので、簡単には分離できません。最終的に、分取薄層クロマトグラフィーを複数回展開することで分離しました。夜通し展開を繰り返し、少しづつ分離したのは今では良い思い出です。
3. 面白い構造の副生成物
収率が良くないせいで苦労した[4+2]付加環化反応ですが、その一方で、大変興味深い副生成物達に出会うことができました。目的の6員環を形成したナフタレンの他に、硫黄・酸素原子を含む、8員環や5,5縮環した化合物が得られました。系中で発生させたベンザインと、チオフェン-S-オキシドが、[4+2]付加環化反応ではない副反応を起こすことで生じたものです。
これらの副生成物ができる想定反応機構や、とても大きい構造の面白い化合物が論文中にのっているので、興味がありましたらぜひ論文を見てみてください。
様々な苦労もありましたが、その分、学びの多い合成でした。真さん、脩平、英介さん、潤さん、ありがとうございました!
浅子貴士
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