結合交換反応

エステルからエステルをつくる

Ester Transfer Reaction of Aromatic Esters with Haloarenes and Arenols by a Nickel Catalyst

Isshiki, R.; Inayama, N.; Muto, K.; Yamaguchi, J.
ACS Catal. 2020, Just Accepted Manuscripts.
DOI 10.1021/acscatal.0c00291

二つの有機分子がもつ異なる官能基の交換反応が進行すれば、高い原子効率で一挙に二分子の変換が可能となり、効率的な分子の構造修飾ができる。最近、Morandi、Arndtsenの両グループによって、パラジウム/Xantphos触媒を用いた芳香族酸塩化物とヨウ化アリールのアリール交換反応が報告された。この反応では酸塩化物、ヨウ化アリールどちらにも酸化的付加できる触媒の使用が重要となる。

当研究室ではこれまでに、高活性なニッケル/dcypt[3,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)チオフェン]触媒を開発している。この触媒は芳香族エステルのC–C結合および芳香族ハロゲン化物のC–X結合(X=ハロゲン)の切断が可能であることがわかっている。今回、我々は、このNi/dcypt触媒が芳香族ハロゲン化物(Ar1–X)と芳香族エステル(Ar2–COOAr3)とのアリール交換反応に有効であると考えた。検討の結果、望みの交換反応が進行したと考えられる、エステルがハロゲン化アリール上に転移した生成物(Ar1–COOAr3)を得ることに成功した。配位子の選択が重要であり、dcyptおよびその類縁体を用いた場合にのみ反応は進行する。芳香族ハロゲン化物としてはブロモアレーンとクロロアレーンが適用できる。また、アレノール類からの直接エステル合成にも成功した。

 一色の何報目か忘れたが、稲山の初論文!一色くんがみつけた反応を稲山さんが莫大な量の実験でものにしてくれました。ChemRxivに投稿し、論文誌はどこに投稿するか迷っていました。とっても面白い反応なのですが、収率がいまいちだからです。とりあえず、ACS catalysisに出してみたところ、論文は意外にも大変スムーズに受理。,,,されそうだったのですが、ちゃんとリビジョンで答えていないと、2度目のリビジョン。稲山さんが頑張ってくれて短期間で、わからなかったことが解決されました。論文の審査員にも感謝したいと思います。

個人的には芳香族ハロゲン化物とのエステル交換反応もいいですが、アレノールからの芳香族エステルがお気に入りです。DMAPの添加で収率向上もいいですね。

内容がキャッチーなネタだったので、大学からプレスリリースもしました。芳香族化合物のメタセシス反応は基盤Bの主テーマであり、とりあえず1報だせてよかったです。このテーマ、まだまだ面白いことが隠されています。乞うご期待。おめでとう!

山口潤一郎

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