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武田薬品との共同研究を論文にした話:パーキンソン病の診断を可能にする分子合成

たまには「論文出しましたブログ」を書こうと思います。主役の学生が論文アピールしたほうがいいと思っていますが、今回は卒業生の論文なので僕が書きます。
研究内容は「パーキンソン病の「診断」を実現しうる分子」を作ろう、というものです。武田薬品との共同研究です。
Identification of α-Synuclein Proaggregator: Rapid Synthesis and Streamlining RT-QuIC Assays in Parkinson’s Disease
Fumito Takada, Takahito Kasahara, Kentaro Otake, Takamitsu Maru, Masanori Miwa, Kei Muto, Minoru Sasaki, Yoshihiko Hirozane, Masato Yoshikawa*, and Junichiro Yamaguchi*
ACS Med. Chem. Lett. 2022, ASAP

まず、簡単に本研究内容を書くと

背景

・パーキンソン病は手足の震え、動作や歩行が困難になる運動障害を引き起こすもの
・根本的な治療法はおろか、実は明確な診断方法はない。運動障害が出た、というのが現状の診断方法
・本病気の原因は完全にわかっていないが、α-シヌクレインというたんぱく質が異常凝集して脳細胞内に蓄積することが主な原因の一つとされる
・運動障害が現れる以前の早期診断を可能にしたい、そんな分子ツールを開発したい (本研究の目的)

今回の研究

・多くのαシヌクレイン凝集阻害分子が知られる中、唯一知られる凝集促進分子PA86に着目し、その構造活性相関研究をした
・凝集促進分子を用いれば、α-シヌクレイン異常凝集体をバイオマーカーとしてパーキンソン病の早期診断が効率的になる。
・ベンゾオキサゾールとハロアレーンのC-Hカップリングを用いて迅速に類縁体を合成した
・PA86よりも凝集促進活性の高いTKD150, TKD152を見いだした
・TKD150等を用いていくつか生物化学的な評価をし、α-シヌクレインの異常凝集体に本化合物が結合していることが示唆された

です。

簡単な本研究のストーリー

本テーマは武田薬品から提案されたものです。このリンクで潤さんも言っているように、今回幸いだったのがPA86が我々が合成を得意としている2-アリールベンゾオキサゾールだったことです。
対応するベンゾオキサゾールとハロアレーン類とのC-Hカップリングを得意とする我々にとって、本手法をツールとして有用分子を合成するのは非常によいテーマでした。(実際に自分たちの反応条件は使ってないですけども)
共同研究として、我々がC-Hカップリングで類縁体をモリモリ作り、それを武田側に活性評価してもらう、という形で進めました。
実際に合成してくれたのが2021年修士卒の高田くん。実験と文献調査の両輪をパワフルに回せる優秀生です。一ヶ月に20個ほどの化合物をコンスタントに武田に送り続け、高活性なTKD150、TKD152を見いだすに至りました。

明確な構造活性相関は見られず、実は五里霧中状態で類縁体合成をしていましたが、彼のパワーでこの分子にたどり着きました。道のりは楽なものではなかったのですが、高活性な化合物を見つけるまで半年くらいしか経ってないです。

僕自身、久しぶりのC-Hカップリングを髙田と二人であーだこーだディスカッションして条件最適化したり(ブロモ基を保持しないといけなかったので実はそんなに簡単じゃなかった)、武田とのやり取りしつつ次何作ろうと画策したりと非常に楽しい思いをさせてもらいました。
(今回見いだした条件は阪大三浦先生が1998年にBCSJに報告した条件が基になっています。この反応条件、ほんとにおすすめです)
スーパーハードワーカーの髙田と論文出せたこと、武田との共著論文とできたこと、本当に喜ばしく思っています。

論文で発表することはできませんが、実はこれよりももっと活性の高い分子も見つかっており、基礎研究の場面での実用化など、様々武田で進めているところです。

髙田、ほんとうにおめでとう!(この代の子たちはコロナで卒業式前後の飲み会できてないし、お祝いしたいなぁ)

末筆ながら、本研究を一緒に進めてくださった武田薬品の共同研究者全員に改めて御礼申し上げます。また一緒にいい仕事したいですね!

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趣味はラーメン、漫画、マラソン、自転車、野球、バレーボール。ものづくりの街、豊田市出身。車ではなく分子レベルでのものづくりを極め、非常識だが理想的な方法論で未踏分子を世に出すことを目指す。60歳になっても子供のように、化学でできるあんな未来こんな未来を語り、学生とともに実現に向けて一歩を踏み出せる研究者でいたいと考えている。

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