遷移金属触媒反応

イソベンゾフランの合成

Rh-Catalyzed Synthesis of Isobenzofurans via Donor/Donor-Type Metal Carbenoids and Their [4 + 2] Cycloaddition.
Morita, N.; Yoshikawa, S.; Ota, E.; Yamaguchi, J.  
J. Org. Chem. 2025, 90, 5986–5999.
DOI 10.1021/acs.joc.5c00339

供与性/供与性型金属カルベノイドを経由したロジウム触媒によるイソベンゾフランの合成法を開発しました。本反応では、カルベン前駆体としてノシルヒドラゾンを用い、塩基性条件下でロジウムカルベノイド種を生成させます。得られた中間体はエステル基との分子内環化を経てイソベンゾフランを与え、さらにこの化合物はマレイミドなどのジエノフィルとの[4 + 2] 環化付加反応に進行します。本反応は高いendo選択性を示し、多様なエステルおよびアリール置換基を有する基質に対しても良好に適用可能であり、優れた位置および立体選択性が得られました。

機構解析として、コントロール実験、NMR解析、および計算化学的検討を行った結果、本反応はロジウムカルベノイド中間体を経由し、環化付加の前にイソベンゾフランが生成する段階的な機構に従うことが明らかとなりました。また、計算結果より、endo選択性は遷移状態間の活性化エネルギー差に起因することが示されました。加えて、ジアゾ中間体の単離と、そこからの直接的なイソベンゾフラン生成の観察により、反応が段階的に進行することが実験的にも確認されました。

本研究は、供与性/供与性型カルベノイドの有機合成における応用範囲を広げるものであり、温和な条件下で高反応性のイソベンゾフラン骨格を効率的に構築できる有用な手法を提供します。

 本論文は、D1の森田くんにとって初めての研究成果であり、彼が取り組んでいる全合成研究の一環として執筆されました。全合成の鍵反応となるイソベンゾフランの生成およびその反応性について詳細に検討しています。原料の合成には、当時学部4年生だった吉川くんが協力してくれました。また、反応機構の理解を深めるために、太田くんには理論計算を担当してもらいました。有機合成化学の観点からも興味深い内容となっており、意義深い論文に仕上がったと感じております。

山口潤一郎

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