みなさんこんにちは。
D1になりました、宮﨑です。
少し前になりますが、5月の半ばに宮﨑の論文一報目をようやく出すことができました!
Chemical Communications誌に招待論文(2023 Emerging Investigators)として掲載されています!
Chloroacetyl boronate N-tosylhydrazone as a versatile synthetic building block
Ryuya Miyazaki, Kei Muto* and Junichiro Yamaguchi*
Chem. Commun. 2023, 59, 7419–7422.
DOI : 10.1039/d3cc02086j
この論文は僕が山口研に配属されて初めてもらったテーマをもとに完成しました。時間はかかりましたが、思い入れの強い自分のメインテーマを論文化できてとても嬉しく思っています。クロロアセチルボロナート N-トシルヒドラゾン(CABT)という化学種のもつクロロ基、トシルヒドラゾン、ボリル基それぞれを変換し、多様な化合物へと誘導できるビルディングブロックとして確立したという論文です。詳細は論文を参照してください(open accessです!)。
このCABTが誕生したのは僕がM1の11月の終わり頃です。
当時学会経験がゼロだった自分は、同期たちが学会発表で活躍する姿に焦り、無理も承知で次の3月にある日本化学会の春季年会に出たいと潤さんにお願いしました。CABTが合成できてすぐの話です。
すると発表までにこのテーマをまとめ上げるのは無理だ、できるわけがないとお許しが出ませんでした。
しかしM1までに何か形に残る成果を残したいという思いがあり、どうしても出たい、と再びお願いしたところ、何がなんでも間に合わせる、死ぬ気でやれとのことで許可をいただくことができました。
発表までに残された時間は3ヶ月半です。課題は山積み状態でした。この3ヶ月半は当然ながら怒涛の日々でした。自分でお願いしてやると言ったからには成し遂げなければなりません。間に合わず公演中止となれば潤さんの顔に泥を塗ることになります。常にそのプレッシャーと闘うことになりました。
発表本番直前のギリギリまで追い込まれていたため、当時の自分は研究の全体像と現状の到達度を完全に見失っていましたがなんとか(問題なく)口頭発表を終えることができました。直前の発表練習でこれなら問題なく発表できるねと潤さんにお褒めの言葉を頂いたことでようやく肩の荷が降りたのをよく覚えています。
発表までの期間、頼むから何も問題なく進んでくれと天に祈りましたが、案の定順調にはいきませんでした。例えば、反応の再現性が問題になりました。結果的にトシルヒドラゾンのE/Z異性体で反応性が異なることがわかり、異性化する手法を見つけることで解決できました(詳細はSIを参照してください)。時間がない中で壁に直面すると非常に焦ります。。。
また、時間がない中で原料合成のスケールアップに失敗するといった事態にも直面し、絶望を経験しました。
山口研では、昼食と夕食の時間が決まっており、その間は実験停止となります。分液作業中に夕食の時間が来たため、水層から化合物を抽出し終えてから夕食に向かいました。一時間後、作業を再開し集めた有機層を濃縮しようとしたところ、生成物の大半が分解していることに気付きました。
有機層に含まれていた水が原因で分解したようでした。化合物が水にやや不安定なことはわかっていたものの、有機層中で壊れるなんて思いもしませんでした。
脱水操作をするか濃縮まで終えてから夕食に出かければよかった、あるいは作業中断を見越してそもそも分液操作を始めなければよかったなど、後悔は尽きません。
以降、化合物の取り扱いにかなり慎重になりました。常に化合物が壊れる可能性をあれこれ考えるため、気疲れすることも増えましたが、改めて化合物を大事に!という教訓となりました。
修士2年では変換反応の幅を広げ、生成物の収率も向上させました。秋頃から化合物のデータ取りをはじめ、年が開ける前に論文の大体は完成させることができました。卒論/修論期間を挟んで、4月の終わりにsubmitできました。
CABTは元々クロロメチルボリル-N-トシルヒドラゾン(CMBT)という名称で取り扱っていました。しかし名称を変えよというrevision対応が入ったため、やむなく名称変更となりました。rivision対応自体はかなり少なく、助かりました。
なんとsubmitから2週間でacceptされました。ここまでスピーディーに進んでくれるとは思いませんでした。ありがたい限りです。twitterで自分の論文の紹介が流れてきてなんとも嬉しい気持ちになりました。潤さん、慶さんをはじめとする多くの方々の手厚いサポートにより論文投稿まで辿り着くことができました。本当にありがとうございました。
実は論文投稿に至るまで、競合相手に2度先を越されています。一つ目はShih-Yuan Liuの報告(M1夏、ボリルジアゾ化合物(等価体)初の変換法)、もう一つはJianbo Wangの報告(M1冬、ボリル-N-トシルヒドラゾン初の変換法)です。
まさか二度も先を越されるショックを経験することになるとは思いもしませんでした。山口研に配属されてからずっとボリル-N-トシルヒドラゾンという化学種を取り扱っていたので、特に2つ目は自分にとって痛いものとなりました。
Jianbo Wangが一つだけ合成が報告されていたボリル-N-トシルヒドラゾンに目をつけ、自身が報告したベンジルブロミドとのクロスカップリングに適用したという流れです。
実は宮﨑もM1の夏終わり頃に自身が合成したボリル-N-トシルヒドラゾンでベンジルブロミドとのクロスカップリングが進行することを見いだしていました。ただ、いくつか条件検討をしてみて収率が向上する気配がなかったため検討をやめ、別の変換反応を探索していました。
論文が出た時期からして、見つけたのは明らかに自分の方が遅いですが、自分が見つけたものを他の人に先に出されるのはこういう感覚か…!と貴重な経験ができました(とてもショックでした)。
前述の通りようやく1報目を出すことができた宮﨑ですが、これまで自分は4テーマに携わっています。今年中にあと何報submitできるでしょうか…。お楽しみに!
宮崎龍也
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