生物活性分子

低分子化合物で植物時計の仕組みを発見

Casein kinase 1 family regulates PRR5 and TOC1 in the Arabidopsis circadian clock

Uehara, T. N.; Mizutani, Y.; Kuwata, K.; Hirota, T.; Sato, A.; Mizoi, J.; Takao, S.; Matsuo, H.; Suzuki, T.; Ito, S.; Saito, A. N.; Nishiwaki Ohkawa, T.; Yamaguchi-Shinozaki, K.; Yoshimura, T.; Kay, S. A.; Itami, K.; Kinoshita, T.; Yamaguchi, J.; Nakamichi, N. Proc Natl Acad Sci USA 2019, Latest Articles.

DOI:10.1073/pnas.1903357116

我々は植物の概日リズムを延長する低分子化合物(PHA)を発見しました。PHAを用いて化学と生物学の融合研究によって植物時計の延長を促すタンパク質とその機能を、世界で初めて明らかにしました。本研究は名古屋大学ITbM中道准教授との共同研究です。

具体的には、PHAの構造活性相関研究を行い、どの部分が活性発現に重要であるか確かめました。次に、その標的となるタンパク質を決定するため、PHAに活性発現に重要な部分を残した分子プローブを合成し、それを用いてタンパク質を解析しました。

その結果、標的タンパク質の決定に成功し、その後の生化学的研究によりこれまで遺伝的重複性が要因となって隠されてきた時計のメカニズムを発見しました。以下にまとめます。

  1. シロイヌナズナのカゼインキナーゼI (CK1)ファミリーが標的タンパク質であった
  2. CK1をコードする遺伝子はシロイヌナズナには少なくとも13遺伝子座あり、 これらの遺伝子群の発現を一度にノックダウンすると時計周期が延長した
  3. CK1は植物時計にユニークな時計関連転写因子(PRR5とTOC1)をリン酸化修飾することで、その分解を制御することが示唆された

喜ぶ第一著者の上原くん

ようやく発表できた!それにつきます。

2013年にWPI拠点として名古屋大学トランスフォーマティブ分子研究所が立ち上がったものの建物はまだありませんでした。化学と生物学の融合を志願して、化学者と生物学者が入り混じったMixラボを立ち上げました。そこで出会ったのが、共同研究者である中道先生です。実は高校の1つ上の先輩で仲良くなったところ、ちょうど植物時計のハイスループットスクリーニング法を開発して、化合物をスクリーニングをはじめるところでした。お互い、植物時計ってなに?構造式がわからない、これって化学でどうにかできますか?みたいなところから始めました。

当時M1だった上原くんを反応開発から、このプロジェクトに完全移籍させて始まった研究。一番はじめにはじめた共同研究ですが、植物という個体を扱わなければならず、次々と他の研究に追い抜かれてしまいました。この業界では初めてといってもいいほどの化学との共同研究だったので、論文出版まで2年以上かかりました。NMRスペクトルを添付したところ、「こんなよくわからないデータをたくさんつけるな」と論文のレフェリーにいわれました。どれだけ化学が足を踏み入れていない分野かわかると思います。

世界中で僕の研究室と中道グループしかやっていない研究。究極の目標は食糧問題の解決。まさにGame Changing Molecule をつくるプロジェクトに関われたこと、Mixラボでの出会いに感謝したいと思います。

さらに現場で右も左もわからぬままはじめた研究に取り組んでくれた上原博士、すべての共同研究者の皆さんにも感謝します。早稲田の植物時計リーダーの齊藤さんをはじめ、4名の学生が関連分子で研究を行っています。目指せ植物調整剤の開発!

山口潤一郎

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