久しぶりのブログですね。近況報告です。
1)ドクター時代の研究が論文になりました
Synthesis and biological activity of ganglioside GM3 analogues with a (S)-CHF-Sialoside linkage and an alkyne tag
Eisuke Ota, Daiki Takeda, Kana Oonuma, Marie Kato, Hiroaki Matoba, Makoto Yoritate, Mikiko Sodeoka, Go Hirai Glycoconj. J. 2023, ASAP.
DOI: 10.1007/s10719-023-10111-0
糖脂質の一種であるガングリオシドGM3のフッ素アナログに関する論文が出ました。袖岡研に行って光反応性基の開発の前に携わっていた仕事です。先行研究(JACS Au, 2020)では、CF2、CH2、CHF(S)、CHF(R)4種類のグリコシド結合をもつGM3アナログの合成を達成しました。本論文はその続報。プローブ合成の第一歩として、GM3アナログの脂肪鎖(尾部)にケミカルバイオロジー研究に汎用されるアルキンを導入した、というものです。
えっ、そんなの一瞬で出来るんじゃ。。と感じると思いますが、そうは問屋が卸さないのが多段階合成(のシンドイところ)です。アルキンをGM3アナログに導入しようと思うと、先行研究で確立した合成経路を若干変更する必要がありました。少し具体的に言うと、以前の合成経路では、終盤でBn基をBirch還元条件で一挙に除去しますが、アルキン存在下ではこの反応が使えません。で、新たな合成経路確立に四苦八苦することになる訳ですが、最終的には米光宰先生らが開発したベンジル系保護基DMPM(diimethoxybenzyl)基が大活躍することになります(米光先生はPMBの生みの親でもあります)。グリコシル化反応では、保護基が反応性に大きく影響することは知っていたものの、ここまで劇的に変わるのは予想外でした。この経験から「たかが保護基されど保護基」が教訓になっています。詳しい内容は論文を見て頂けると幸いです。また、原因は不明ですが、脂肪鎖上のアルキンの位置が少し変わるだけで、細胞増殖を促すGM3アナログが細胞毒性をもつ分子になってしまう、ということも予想外の発見でした。普通作らないであろう内部アルキンまで合成して(Huisgen環化が使えない)、生物活性を比較した甲斐がありました。将来の糖脂質研究に何らかの形で貢献できたら嬉しいです。
ちなみに。袖岡研に行って初めて仕込んだ反応が、量上げのためのアイルランドクライゼン転位でした(先行研究の論文内にあります)。原料回収が出来ない一発勝負の反応なんですが、最初は全く再現が取れず、(共同研究者が)約30工程かけて作った基質が減っていくのは精神的に結構辛かったです。一から自分で量上げすれば半年は失うと言われてたので、3年でドクターを取らなければいけない身としては、結構なプレッシャーでした(結局4年かかりましたが苦笑)。今となっては良い思い出ですが、結局、反応のコツは厳密な温度制御でした。精神的にも技術的にもこの仕事はかなり為になりました。
本論文を出すにあたり、平井さん、袖岡先生はもとより、竹田くん、的場さん、寄立くんに大変助けて頂きました。この場を借りて感謝いたします。
2) 36歳になりました
上の写真はラボでお祝いしてもらった時のもの。ついに36歳になりました。プレゼントに無重力ジェルピローとケーキを頂きました。毎年ありがとうございます。
3) 第47回 有機電子移動若手の会で講演します
学生時代に参加して以来約10年ぶりの参加です。母校でお世話になった先生方の前で話すのは緊張するし、なんだか少し気恥ずかしいです。お声がけ頂きありがとうございます。内容はまだ決まっていませんが、若手の会なので学生さんをエンカレッジ出来ればと思っています。
というわけで近況報告でした。
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ご無沙汰しております、矢上のお祭りの方で一緒でしたYagitaです。
最近アメリカの駐在になりまして、チェックの換金方法調べていたら、たまたま名前を見かけました。
論文おめでとうございます!ベイエリアの方お越しになることがあればぜひ連絡ください。