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コロナ禍と研究室

1年間必死でがんばった卒研生の卒論お疲れパーティーも、3年間一緒に研究した修士のフェアウェルパーティも、新しく意気揚々として所属した4年生のウェルカムパーティーもできなかった。研究室を運営して5年になり、このままいけばまだ30年続くことになるが、こんなに悔しい年はもうないだろう。ただ、ギリギリのラインでなんとか研究を続けられていた。毎日どうするか考え、研究室のSlackを通して考えを伝えていたが、閉鎖は目前だった…

上記は閉鎖になる寸前の2020年4月上旬の状況。もし閉鎖になったら夏ー冬まで、もしかしたら今年度いっぱい皆と研究ができないのではと真剣に悩んでいた毎日。

そして大学閉鎖となった数日前、ついに研究室閉鎖を提案し、もしも希望者がいればなんとか続けられるように以下のアンケートを取る。その結果ほとんどのメンバーが大学が閉鎖になるまで研究したいと。あの状況から考え、大学にも多くのクレームが来ている中、学生たちの心意気にはシビレた。こいつらが共同研究者で良かったと思った瞬間。

月曜日からの研究室(閉鎖なるまで)
アンケートの結果より月曜日から2週間(4月6日〜4月19日)までの研究室運営の詳細を決めました。
思ったよりも研究室研究活動希望が多かったのですが、最大限に気をつけて自分の身は自分で守る精神(実験と同じ)で通学・研究活動を行って下さい。
:1::2:を希望した人:基本的には希望通りにしたいと思います。時間もいつもどおり9:30まで登校です。通学中は最大限に気を配って気をつけて下さい。
体調が悪い場合は極力登校を控えること。その場合も通常時と同様です。
研究室内ではラボワーク中心で、デスクワークは極力さけるように(たぶん後々いやというほどできます)。わざわざ足を運んでいるのでできる限り実験を行ってください。実験に集中できていない人、来る意味がないとスタッフが判断した場合すぐに在宅研究に強制的に切り替えます。
食事:昼時の森村、63-5階の部屋を確保しました(63-5階は火曜日は確保できていない)。自身の安全を考えて、ラボ居室いずれかで食べて下さい(実験台は原則禁止)。強制ではないので別で食べることも可能ですが、11:30〜いつもどおりのご飯時間でお願いします。夕食は前日班分けをやめて自由にします。外食をするひとは最大限に気をつけて下さい。時間もいつもと同じです。ちゃんとご飯をたべてくださいね。
:3:を希望した人:とりあえず今日と同じスタイルでやってみましょう。朝9:30にズームログイン(ビデオ+声を話せるところで)、状況確認の後切断、課題は後ほど与えます。在宅は生活が不規則になりやすくメンタル的に応えるのと、その部分だけ気をつけて下さい。基本的に普通の時間はすぐに応答できるようにSlackを立ち上げておいて下さい。
4年生:検討した結果、すべてテレワークに切り替えることにしました。ごめんなさい。やる気に満ち溢れているところはわかるのだけど、大学生という立場、また大学院生は実験を進めたくて、リスクを犯してきているので、余裕がないと思われます。なので、改めて、状況が緩和してから研究活動を行いましょう。 :3:と同じプロセスで、ある一定の課題をあたえます。早めに院試勉強期間がきたと思って下さい。
大学院入試推薦の人:紙に捺印し提出しなければならないので、はやいうちにきて提出して下さい。
本決定も、もしかしたら月曜日には意味をなさなくなる(閉鎖になる)かもしれません。とりあえず、以上です。質問等あればスレッドまで。

しかし、4月8日、研究室はついに閉鎖となった。

閉鎖期間は2ヶ月以上。想像していたよりきつく、長く感じたが、想像していたよりは短かったというのが率直な感想だ。僕らはこのコロナ禍の研究室活動で多くのものを失い、そして今後も失う。

  • 実験研究活動の短縮:2ヶ月は僕の感覚で言えば、すでに道筋が決まっていれば論文1報だせる期間である。それをごっそり失った。例えば、学振に応募しようとしているある学生がそれまでに2報論文を投稿する予定だったが、できなかった。
  • 食事の自由:うちの研究室は、以前は毎日、昨年は週に2回グループを決めて、スタッフも含めてご飯に繰り出していた。昼はみんなで一緒にご飯を食べることを習慣にしていた。忙しくてもご飯の時間をとってほしい、仲間同士研究も雑談も含めて話してほしいからだ。そのコミュニケーションルールが破棄された。それはいまでも変わらず、今後もしばらくできないだろう。悲しい。
  • イベントの制限:上述したように卒研生の卒論お疲れパーティーからやっていないので、もうずっとやっていない。僕は、4年生の分は全部、2次会は全員分お金を出すことに決めている。早稲田リサーチアワードでもらった賞金も全部放出して、イベントを考えていた矢先だ。どうやら学生にいわせれば、現状で毎年に比べて70万円以上使っていないらしい。大学から8月2日にイベントが解禁されると聞いていたので、とても楽しみにしていたのだが、なんと12月迄まで延期になった。その間には毎年やっていた夏の研究室旅行「ウミノヒカイ」や、秋の研究室旅行も含まれている。涙も出ない。
  • 時間の制限:うちは9時半にきて、あとは自由。それが唯一の絶対ルールだった。やりたければ朝までやればよい。全力でやってうまくいかず、飲みに行ってウサを晴らしたいのならばすればよい。僕がそうだったので、時間を押し付けたくない。できるやつは自分で自分のスケジュールを組める。それが、10時に必ず退出しなければならず、朝の時間を早めた。なぜ研究活動という極めて高度な欲求活動を制限されなければいけないのか。制限されないのが大学の利点なのに(追記:10時門限はなくなったようです)。
  • 入構の制限:教員は実は毎日申請すれば入構できたのだが、学生は完全に禁止であった。どんな理由であっても。しかも教員もいるだけで、おかしな悪いやつのレッテルを貼られた。歩いて3分でいける距離で、家だと小さな子供がいると説明しても、ほぼ始末書寸前であった。なぜ、大学のために(ためではないが)研究教育活動をアピールしようと必死にがんばっているのに、起こられなければならないのか。ストレス満載であった。
  • 引っ越しの延期:GWに新棟に引っ越しの予定で、準備も指定谷も関わらず、完全延期になりようやく最近になり引っ越しすることができた。新しく購入した2台のNMRが、何も使わなくても寒剤というお金をばらまいていた日々が2ヶ月続いた。
  • 学会・講演会の中止:進学者や博士の国際学会のみならず、毎年必ず修士1年生にいかせている夏の学校(夏期間の泊まり込みの若手の会)も全部中止になった。リアル講演会なんてできるわけがない。博士課程の学生の留学はどうなるのだろう?もう先が見えない。

と、ネガティブなことをあげるときりがない。ほぼ研究室のいいところをすべて取られた感じだ。我々の活動はほとんど「平時、平和であればこそ行える」ということを実感した。

それに伴い、このブログにもしばしば登場する思い出の場所もどんどん潰れていく。もちろんこれだけの影響ではないと思うが、大ダメージであったことは確かだ。

高田馬場・早稲田界隈で閉店した店舗:はなび、麺爺、おかむらや、山本のハンバーグ、麺匠いし井・土風炉・甘太郎・磯丸水産(もうすぐ閉店)・松の湯・てんや早稲田店(もうすぐ閉店)・歌志軒

ただ、僕たちだけでなく世の中がすべてこれかもしくはそれ以上のひどい状況である。なんだ、愚痴をはきたいだけか!と思った人もいるだろう。実はそうではない。

ネガティブな状況は新しいことを生む。サイエンスはネガティブな状況、困難な課題を解決するためにある。

そして、個人的なものも含まれるが以下のようなよいこと、解決したこともたくさんあった。

  • 健康になった:精神的な健康は別だが、少なくとも肉体的には健康になった人が多いと思う。結構ギリギリまで自分を追い詰めて戦っているひとも多かったので。飲み会もなくなった分暴飲暴食はなくなった。
  • 料理をしはじめた:時間ができたため、今まで料理をしていなかったひとも自分でつくるようになった。自作の料理が良いとは限らないが、経験としては重要だ
  • めちゃくちゃ勉強した:このまま閉鎖が解かれなかったときでも安心して卒業できるように、多くの課題を出した。課題を出せばそれをチェックするのはスタッフであるため、通常よりもよっぽど大変であったが、皆こなした。学力のレベルが圧倒的にあがったと思う。これなら自身をもって卒業してもらえると思う。
  • 論文たくさん書いた:いままで日常を回していくだけで精一杯で後回しにしていた論文や総説をありったけ書いた。総説を課題にしていた学生もいた。こんなに集中して書物をできるときは、これから殆ど無いだろう。
  • オンライン授業がすこぶる調子がいい;Youtubeのライブ配信を使って、オンライン+オンデマンド講義を行った。実は新棟に引越しをしていたため、本当なら毎回理工キャンパスに講義にでかけなければならなかったが、1回もいかずすべて自分のデスクで講義ができた。
  • 会議がオンラインになった:Webexはすでに導入されていたが使わない。と言われれていたオンライン会議システムが日常になった。これも会議のたびに移動しなければいけないといった状況を防ぐことができた。

それ以外には、ケムステでバーチャルシンポジウムを企画できたことだ。現状でなければ、zoomで講演してyoutubeでライブ配信などと考えることも、余裕すらなく、講演者も対応できなかったところを普通に対応できるようになった。

 

ネガティブシンキングはサイエンスには必須だが、「だめだ」「いやだ」からは新しいことは生まれない。それらの解決法を考えろ。これは常に学生にも話していることだ。

この未曾有の状況を機にいろいろ考えさせられた1年であり、今後もこのような状況は暫く続くと思う。当時の気持ちを残しておきたくて、このブログに綴る。負けない。

PS でも飲み会はしたい!いやトップとしてだめだ!という悪魔と天使がささやきあう毎日である。

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山口 潤一郎

教授早稲田大学
趣味はラーメン、マラソン、ダイビング、ウェブサイト運営など。化学の「面白さ」と「可能性」を伝えるために、今後の「可能性」のある学生達に,難解な話でも最後には笑って、「化学って面白いよね!」といえる研究者を目指している。.化学ポータルサイトChem-Station代表兼任。

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