こんにちは、M2の星です。
この度ついに初の論文をOrganic Letters誌に出すことができました!
上のリンクの記事にもありますが、元々は合成のテーマだったということもありまだまだ満足はしていません。何としても早いうちに続報を出したいです。
さて、今回は(今回も?)少し専門的な話になってしまうかもしれませんが、専門用語はなるべく少なめにして書ける範囲でこの論文が形になるまでの裏話を書こうと思います。
この論文は「α-ジアゾエステルの分子内不斉ブフナー反応」を開発したというものですが、元々のテーマはこの反応を鍵反応とした天然物合成研究でした。しかし、早くも壁にぶつかることになります。
初めて鍵反応のモデル反応を試したのは学部4年の夏あたりだったでしょうか。「ベンゼン環を壊す」反応のはずなのに、NMRを見たらベンゼン環がほぼ完全に残っているのは一目瞭然でした。まさかサンプルを取り違えたか……?
結局得られた化合物を特定してその後文献調査を重ねることで、どのような反応が進行していたかが明らかになります。いかにその望まぬ反応を抑制するかが焦点となり、合成から反応開発に移行していきます。
論文にもありますがまずは用いる触媒を検討し、望まぬ反応を大幅に抑制することに成功します。その触媒は以前別テーマで使われていて偶然研究室にあったもので、運も味方しました(とは言ってもこの触媒にたどり着くまでに結構時間がかかってしまいましたが)。しかし、予想外にもまたすぐに暗礁に乗り上げることになります。
反応条件が定まったら次は基質適用範囲を調べるのが定石ですが、これが全くうまくいきません。ベンゼン環のパラ位に様々な置換基を導入してみましたが、抑制に成功したはずの副反応になぜかまたもや悩まされることになります。そこで様々な仮説を立てて再度副反応の抑制に挑戦しますが、ことごとく失敗。この時は正直テーマの存続も危ぶまれていました…。
副反応を抑制できる兆しもなく途方に暮れていたある日、たまたま見つけたと言って淺原くんからある一報の総説を紹介してもらいます。それはなんとずっと悩まされ続けていた副反応に焦点を当てた総説で(当時はそんなものがあるとは夢にも思わなかった)、さらにその内容に衝撃を受けます。副反応のメカニズムは自分が想定していたものとは全く違っていて、今までのアプローチがうまくいかなかったのも頷けました。その総説を読み込んで、ようやく自分の反応のメカニズムのイメージがわいてきました。そしてついに副反応を抑制できない原因とその回避策を思いつくに至ります。詳細は論文を読んでいただきたいのですが、その答えは「置換基の位置をパラ位からメタ位に変更する」ことでした。
さらに、自分のイメージが正しいのならばこれは不斉反応になるはずだという自信がありました。当時はまだ不斉反応を解析する環境が整っていませんでしたが、これまた運良く別テーマで必要だったために研究室にHPLCが導入されていたので、比較的すぐに測定環境を整えることができました。そして幸運にも高いエナンチオ選択性が発現していることがわかり、こうして無事論文にすることができました。
このテーマを通して思ったことは、何事も簡単には諦めてはいけないということと、日々の会話や議論は大切だということです。何気ない話から思わぬ進展が生まれることもありますね。淺原くんありがとう。
最後になりましたが、研究室に入ってからずっと面倒を見てくださっている潤さん、慶さんにこの場を借りて改めて感謝申し上げます。正直実験はあまり速い方ではないかもしれませんが(苦笑)、ひとまずこうして形にできて安心しています。そして昨年研究室に加わってからずっと伴走してくださった英介さん、本当にありがとうございました。ご迷惑をおかけしてばっかりだったのでもっと精進します…。
長くなってしまいましたが、今回はこの辺で。ところで最近AIの台頭と共に僕が長年やってきた囲碁がクローズアップされていますので、今度はその辺りの話を書こうかなあなんて思っています。それではまた。
星貴之
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